2013年1月18日金曜日

海南島にて


今月半ばから大学では冬休みが始まりました。ニュースでもご存知かもしれませんが、北京では過去最悪の大気汚染を記録していて、文字通り息の詰まりそうな日々を過ごしています。北京に来てから約4ヶ月たちましたが、未だに肉体的にも精神的にもハードな毎日です。冬休みは日本にちょこっと帰る予定です。

ところで今月の初旬ごろ、中国の海南島に行ってきました。海南島は中国の最南に位置する常夏の島で、最高気温が氷点下の極寒の北京と比べると天国のような場所です。ここには遊びに行ってたわけではなく、数学の研究集会で行ってきました。最近の中国は数学のような基礎科学にも力を注いでいて、この研究集会でもアメリカから著名数学者が数多く訪れていました。

とくに印象に残ったのはデヴィッド・マンフォードというある数学者の講演でした。この人は数学者なら誰でも知っているような偉大な数学者で、とくに僕が関わっている代数幾何の分野では後世に残る大きな仕事を残しています。実際、僕が書いている論文でも、全ての論文で彼の仕事を参照しています。この代数幾何の仕事で、彼は数学で最高の名誉であるフィールズ賞も受賞しました。

数学の天才にしばしばありがちなことですが、彼は代数幾何でそれだけ偉大な功績を残しておきながら、ある時期を境に代数幾何の世界を去ってしまいます。そして現在はコンピュータの画像処理に関する研究をしています。今回の講演では、彼の個人的な歴史からはじまり、なぜ自分は代数幾何のような純粋数学の世界から応用数学の世界に身を転じたのか、そして聴衆である純粋数学者へのメッセージをまるでTEDの講演のように分かりやすく力強い言葉で述べられていました。

マンフォードがなぜ代数幾何から転向したのか、というのは僕の中でも大きな疑問でした。この1時間の講演を聞いて、僕の理解でその理由を簡単に言うならば、それは現在の純粋数学は「自然」の世界から大きくかけ離れていて、そこに危惧を感じている、ということでした。こういうことは一般的にもよく言われるようなことですが、マンフォードが言うのですから言葉の重みは全く違います。なぜなら彼こそがその乖離を招くような抽象的な数学の道具を多く発明したからです。

もちろん彼は現代の純粋数学が理論物理の世界とインタラクションを起こしながら、両分野で大きく発展しているような背景は知っています。ただ彼のいう「自然との乖離」とは、例えば音楽のメロディや視覚イメージのようなものを純粋数学の一般論を使って説明できるのか、ということです。そんな事もあって、彼は現在コンピュータの画像処理のアルゴリズムに関する研究を行っているそうです。

この偉大な数学者の哲学は仙人の悟りのようなもので、僕は全くその境地には達する事はできませんが、共鳴するものは確かにあります。例えば、自分の話に引き付けるならば、僕もアートと数学という二つのものに魅力を感じ、それに多くの時間を費やしてきたわけですが、そこに根本的な共通点を感じる一方、両者の乖離も感じます。そこにどう決着をつけるのか、それは今後の宿題にしていきたいと思っています。

最後にマンフォードから我々(new students)に向けた教訓的なメッセージを参照させていただきます。